英国の「名門」は、ひとつではない
日本から見ると、英国のゴルフはひとつの文化のように思えます。
しかし、英国(United Kingdom)はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから成り、それぞれに異なる歴史や文化があります。ゴルフも同じです。とりわけイングランドと、ゴルフ発祥の地であるスコットランドでは、ゴルフが社会に根付いていった背景に違いがあり、それは現在のゴルフクラブにも色濃く残っています。
セント アンドリュース、ミュアフィールド、カーヌスティ、サニングデール――。いずれも世界のゴルファーが憧れる「英国の名門」ですが、その成り立ちやクラブのあり方はずいぶん違います。
今回はコースそのものではなく、その背景にある「Golf Club」に目を向けてみます。
スコットランドでは「ゴルフ」が先にあった
日本では「ゴルフクラブ」と「ゴルフ場」をほぼ同じ意味で使うことが多いですが、本来「Club」とは施設ではなく、そこに集まる「人々」を意味します。
その原型が分かりやすく残っているのがスコットランドです。
セント アンドリュースのオールドコース。その1番ティの横には、The Royal and Ancient Golf Club of St Andrewsの象徴的なクラブハウスがあります。一見するとクラブがオールドコースを所有しているように見えますが、実際にはそうではありません。
古くから人々がリンクスでゴルフを楽しみ、そこに集まったゴルファーたちが組織を作り、競技を行い、Clubを形成していく。いわば「ゴルフをする場所と人」が先にあり、その周りにクラブが生まれていったのです。
この文化を象徴するもうひとつの場所がカーヌスティです。

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カーヌスティ ゴルフ リンクスは、全英オープンを何度も開催してきた世界屈指のチャンピオンシップコース。しかし、いわゆる会員制のプライベートコースではありません。複数のローカルクラブが同じリンクスをホームとし、地元のゴルファーにとっては日常的にゴルフを楽しむ場所でもあります。
19世紀末、リンクスが失われる可能性が生じた際には、地元の人々が資金を集め、その土地をゴルフのために残そうと動きました。
世界最高峰のコースでありながら、同時に「町のゴルフ」でもある。カーヌスティが名門である理由は、閉ざされているからではないのです。

カーヌスティ ゴルフ リンクス
イングランドで発達したクラブ文化
一方、19世紀後半のイングランドでは、少し違った形でゴルフが広がっていきました。
ここで知っておきたいのが、英国独特の「Club」という文化です。英国では古くから、共通する社会的背景や関心を持った人々が集うプライベートメンバーズクラブの文化が発達してきました。階級意識が今よりもはるかに強かった時代には、どのClubに属し、誰と交流するのかということも、その人の社会生活の一部でした。
19世紀後半にゴルフがイングランドで急速に普及すると、ゴルフクラブもまた、単にスポーツをする場所ではなく、人々が集い、交流する社交の場として発達していきます。
特にロンドン郊外では、鉄道の発達や郊外化を背景に、ビジネス層や専門職など比較的裕福な人々が集うクラブが次々と誕生しました。
その代表格のひとつがサニングデール ゴルフ クラブです。
1899年にはクラブ設立に向けた委員会が組織され、100人のゴルファーが資金を出し合ってウィリー・パークJr.にコース設計を依頼。その計画にはゴルフコースだけでなく、周辺の良質な住宅開発も含まれていました。
さらに面白いのが鉄道との関係です。当時、ロンドンからクラブへ向かうには鉄道が重要でしたが、列車はサニングデール駅に十分停車してくれませんでした。そこで鉄道会社の責任者がゴルフ好きであることを知り、彼をクラブ初のHonorary Memberに迎えたところ、その後列車が停車するようになったという逸話がクラブ史に残されています。
ロンドン、鉄道、郊外開発、社交、そしてゴルフ。地域の人々がリンクスを守ったカーヌスティとは、また違った背景から生まれた名門です。
現在の英国社会を、かつてと同じ階級社会として語ることはできませんが、それでも伝統的なゴルフクラブを訪れると、その雰囲気と社交文化の中で育まれてきた「Club」の歴史を、今もどこかに感じることがあります。
それもまた、英国の名門が持つ独特の格式なのでしょう。
コースの向こうにある「Club」を体験させてもらう
英国のゴルフを旅していると、世界最高峰なのにパブリックだったり、全英オープンを開催していないのに特別な敬意を集めるクラブだったり、さまざまな「名門」に出会います。コース、歴史、競技、メンバー、地域とのつながり――。それぞれが違った理由で「名門」なのです。
海外で名門コースをプレーする醍醐味は、有名なコースを巡ることだけではありません。次に英国を訪れる機会があれば、ぜひコースだけでなく、その背景にある「Club」にも目を向けてみてください。
私はカーヌスティの町中にあった、素朴で小さなゴルフクラブのメンバーになりたい――そう思いました。