「名画の模倣」か「不変の真理」か? 100年愛されるゴルフ設計の『型』とは?
世界のゴルフ場を巡っていると、ふと「既視感」に捉われる瞬間があります。初めて訪れたコースなのに、グリーンの形状がどこかで見覚えがあったり、見知らぬ荒野にスコットランドの面影を感じたり。それは決して偶然ではありません。そこには100年以上も前から受け継がれる「テンプレートホール」という、ゴルフ設計における究極の『型』が潜んでいるからです。
蘇る「幻の聖杯」:ザ リド、80年目の再臨
ゴルフコースマニアと会話をする際、話題に上がるのは、アメリカ・ウィスコンシン州の砂丘に現れた「ザ リド」です。1914年、ニューヨーク近郊に誕生した初代リドは、史上最高の人工コースと称されるコースでした。設計家のC.B.マクドナルドとセス・レイナーは、隣接する海峡の底から約200万立方ヤードもの砂を汲み上げ、湿地帯を理想の地形へと完全に作り変えたのです。
著名なライターが「世界最高」と絶賛し、後にオーガスタを設計するアリスター・マッケンジーが設計コンテストで世に出るきっかけとなった伝説の舞台。しかし、その輝きは時代の荒波に呑み込まれます。1942年、第二次世界大戦の激化により米海軍が軍事基地建設のために土地を徴用。ブルドーザーによって、マクドナルドが心血を注いだ芸術品は跡形もなく破壊されました。
80年もの間、古写真の中でしか会えなかったこの「聖杯」が、最新のGPS技術と現代の巨匠トム・ドークの手によって復元されました。なぜ、そこまでして100年前のコースを蘇らせる必要があったのか。それは、そこにゴルフというゲームを最もエキサイティングにする「不変の真理」が詰まっているからに他なりません。
戦略の結晶、代表的なテンプレートを読み解く
テンプレートホールとは、単なる形状の模倣ではなく、ゴルフの戦略を決定づける「論理の移植」です。
例えば、世界で最も有名なテンプレート「レダン(Redan)」。クリミア戦争の要塞に由来するこのパー3は、グリーンが斜めに配置され、手前には深いバンカーが口を開けています。直接ピンを狙えば大火傷を負うが、グリーンの手前にある傾斜をうまく使えば、ボールは魔法のようにピンへと吸い寄せられる。この葛藤こそが、テンプレートの醍醐味です。
もう一つ、現代のコースで頻繁に出会うのが「ケープ(Cape)」です。海や池といったハザードを斜めに横切ってティーショットを打つ、いわゆる「ハザード越え」の代名詞。設計者の意図は明確です。「行けるだけ行ってみなさい」といったところでしょう。
リスクを取ってハザードを深く越えるほど、セカンドショットは短く、容易になる。しかし、欲張れば奈落の底。この「自分自身の能力を客観的に判断する」という心理テストのような設計は、100年前からゴルファーを魅了し、翻弄し続けてきました。
テンプレートに会いに行く旅のガイド
私たちも、これらの名ホールをプレーすることができます。
米国:テンプレートホールの聖地と復元プロジェクト
- バンドン デューンズ ゴルフリゾート(オレゴン州)
「オールド・マクドナルド」は、その名の通りC.B.マクドナルドの設計原則を現代に蘇らせたコースです。米国最大級の面積を誇る巨大なグリーンには、レダン(12番)、ビアリッツ(8番)、ロード(11番)など主要なテンプレートが網羅されており、クラシックなラウンドが楽しめます。 - サンドバレー ゴルフリゾート(ウィスコンシン州)
伝説の「ザ リド」が精密に再現されています。リゾート宿泊者は日曜日から木曜日の間に限りプレーが可能です。また、隣接する17ホールのショートコース「ザ・サンドボックス」にもレダンなどが巧みに配置されており、肩の力を抜いてテンプレートの妙を味わえます。
英国・アイルランド:オリジナルと現代の融合
- ロサペナ ホテル&ゴルフリゾート(アイルランド)
トム・ドークが広大な砂丘に描いた「セント・パトリックス・リンクス」。11番ホールには「横向きのビアリッツ」というユニークなグリーンが配置され、現代設計の遊び心を感じさせてくれます。 - プレストウィック ゴルフ クラブ(スコットランド)
全英オープン発祥の地。ここには「アルプス」テンプレートの起源となった17番ホールが今も残っています。ビジターとしてこの歴史の重みに触れ、ブラインドの丘を越える興奮を味わうのは、ゴルフ旅の極致と言えるでしょう。